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平成30年度大阪アンコール講演会を終えて

 日本塗装技術協会では、東京地区にて年3回講演会を開催しております。また、その内容を東京地区以外の皆さまにもお伝えするために、年1回ダイジェスト版として、アンコール講演会を開催しております。
 今年度のアンコール講演会は大阪地区において、「塗装の新時代!~壁を超えた、塗装技術の新たなチャレンジ~」と題して開催いたしました。塗装の歴史においては、先人はその時代に合わせた技術開発を行ってきました。私たちもまた、現在や将来ニーズに向けて技術を開発し続けています。今回は、社会に貢献する技術を提供するために、難易度の高い課題に果敢に挑まれた内容をご紹介したいと企画いたしました。
 第一講演は新日鐵住金株式会社 古川講師による「家電・建材等に用いられる塗装鋼板の連続塗装技術」でした。ロールコーター塗装は高速・連続塗装のため、小さな不具合が大きな生産性低下につながります。その不具合について解析し、解決した事例を紹介いただきました。中には従来、常識とされてきた考え方に疑問を呈し、新たな考え方により課題を解決した例もありました。また、不具合のメカニズムを利用して新意匠を創出した事例も紹介され、視点を変えてものを見ることの重要性を学びました。

 第二講演は大日本塗料株式会社 松本講師による「インク及び塗料によるインクジェット塗装技術」でした。インクジェットプリンターを新しい塗装方法へ展開されており、積極的にフィールドを広げていらっしゃいます。そこで浮かびあがる課題を解決し、適応範囲を広げることに成功しておられました。塗装では実現が難しい精密でユニークな意匠のサンプルを拝見し、これからの塗装を大きく変える技術のひとつとなることを実感しました。

 第三講演は関西ペイント株式会社 加藤講師による「漆喰塗料の機能性とデザイン性について」でした。日本では古来より身近であった漆喰の壁ですが、今では使われる所が限られ、また、職人も減少しています。漆喰の効能を活かしながら、塗料としての要件である安定性・作業性・塗膜性能を満たした商品開発でした。従来と異なるコンセプトの塗料は普及が難しいですが、この機能が役立つ施設に導入し、日本の建築事情に合わせて壁紙タイプにするなど工夫されている部分も大変参考になりました。

 第四講演は日産自動車株式会社 筒井講師による「高彩度、かつ、陰影の強い意匠を実現する自動車塗料の適用開発」でした。自動車の意匠性は日進月歩で開発が進み、各社が新しいコンセプトを打ち出しています。日産自動車においても、トレードオフとなっていた彩度と明度を高次に両立する意匠を創出すること、そして、実際に塗装現場で具現化させるというハードルがありました。それを乗り越える技術的な発想と行動についての熱意あふれる語りには、聴講者の皆さまも私も引き込まれていました。

 第五講演は日本ペイントホールディングス株式会社 卜部講師による「塗膜による防食技術」でした。水性化、重金属フリーと高耐久の両立は重要性が高まっています。しかし、防食の基本的な考え方である「遮断・密着・防錆」を整理し、様々な事例の解説を通じて防錆設計について解説していただきました。また、評価方法は動画を使用して説明していただいたので、これから活用したいと考えておられる聴講者の方は、明日からでも評価できると思います。

 第六講演はトヨタ自動車株式会社 大河内講師による「自動車防錆における市場トレンド」でした。防錆は顧客から見える機能ではありませんが自動車の安全に係る重要な役割を担っています。世界各地での防錆事情は実に様々であり、日本よりも過酷な地域も数多くあるなど新な気づきがあり、興味深く伺いました。また、環境に優しく、かつ、防錆性能を向上させる技術開発に成功された事例を紹介いただきました。これからの塗料開発においても限界はなく、創意工夫によって改善できる可能性を感じました。

 今回は、講師と聴講者の距離が近く、講演後の質疑応答も活発に繰り広げられました。「もっと知りたい!」と積極的に質問する聴講者と本音をちらりと見せる講演者の回答など、大阪の土地柄ならではの雰囲気でした。
 講演終了後のアンケートにはほとんどの聴講者の方から回答をいただくことができました。「普段は関連のない分野の技術を聞いて参考になった。」「技術と市場のバランスが良く、理解しやすかった。」「専門性やレベルが高い内容だった。」など高い評価をいただきました。
 日本塗装技術協会は、主に塗料・塗装について「技術の交流、伝承および発展へ貢献する」ことを目標に活動しております。これからも委員一同、日々の皆さまの技術活動に少しでも貢献できるような話題を提供していきたいと考えております。
 第3回講演会は平成31年2月8日(金) 自動車塗装関連技術を大テーマとして開催予定です。詳細が決まり次第『塗装工学』誌、ホームページ等でお知らせいたします。皆様のご参加をお待ちしております。

平成30年度アンコール大阪講演会
セミナー委員会 委員長 井賀 充香


講演会風景

主催日本塗装技術協会
協賛日本化学会色材協会日本塗装工業会
日本防錆技術協会表面技術協会日本自動車車体工業会
日本塗装機械工業会日本工業塗装協同組合連合会日本塗料工業会
日本塗料検査協会高分子学会自動車技術会
材料技術研究協会静電気学会日本印刷学会
粉体工学会日本金属学会日本建築学会
日本建築仕上学会日本粉体工業技術協会日本レオロジー学会
腐食防食協会日本油化学会国際工業塗装高度化推進会議

期日平成30年7月27日(金)
会場エル・おおさか(大阪府立労働センター) 南館 5階 南ホール  大阪市中央区北浜東3-14

参加費日本塗装技術協会 及び協賛学協会 会員16,200円
非会員21,600円
学生参加者3,240円

プログラム

10:00〜10:10  開会の挨拶とガイダンス    日本塗装技術協会 セミナー委員会
講演1 「家電・建材等に用いられる塗装鋼板の連続塗装技術」
10:10〜11:00 新日鐵住金株式会社 技術開発本部 君津技術研究部
主幹研究員 古川 博康
塗装鋼板は、鋼帯に連続塗装されコイル状に巻かれて出荷されるのが一般的である。本講演では、連続塗装ラインで広く使用される塗装方式であるロールコーターとカーテンコーターについて解説する。また、各塗装方式の特徴を生かした意匠性塗装鋼板についても紹介する予定である。

講演2 「インク及び塗料によるインクジェット塗装技術」
11:05〜11:55 大日本塗料(株) スペシャリティ事業部
次長 松本 茂樹
インクジェットによるインクの加飾技術及び塗料の積層技術で複合塗膜を形成し、産業用途における加飾フィルム及び版を要する印刷代替を目的とした被塗物へダイレクトに印字するインクジェット塗装システムを紹介する。

昼食休憩(75分間)
講演3 「漆喰塗料の機能性とデザイン性について」
13:10〜14:00 関西ペイント(株) 汎用塗料本部 建設第1技術部
加藤 由貴子
漆喰塗料とは、古来より建造物の材料として使用されている漆喰を塗料化したもので、左官職人のような小手による高度な技術を必要とせずに、誰でも簡単にローラーや刷毛での塗装を可能とした材料である。弊社では、住宅内装用・外装用として意匠性(パターン)および淡彩色領域のカラーデザイン性に富んだ漆喰塗料として上市している。漆喰は、抗ウィルス機能、抗菌機能、消臭機能、VOC吸着機能など非常に優れた機能を示し、これは主原料の消石灰 (主成分: 水酸化カルシウム Ca(OH)2)によるものである。主な報告内容は「これらの機能についての検証」「意匠性とカラーデザイン性について」である。


講演4 「高彩度・高コントラストカラーを実現する自動車塗料の適用開発」
14:05〜14:45 日産自動車株式会社 車体技術開発部
塗装・防錆・車体材料技術開発グループ
アシスタントマネージャー
筒井 宏典
自動車のカラートレンドをみると、高彩度で且つ陰影が強いカラーが増えてきている。このような塗色はカラークリアやカラーベース塗膜を工夫することで実現されている。今回、カラークリアと高彩度カラーアルミフレークの適用技術について報告する。


休憩(10分間)
講演5 「塗膜による防食技術」
14:55〜15:35 日本ペイントホールディングス株式会社 R&D本部
次世代技術研究所
卜部 健吾
塗膜の3つの役割は保護、美観、機能付与であり、中でも金属を腐食から保護する防食技術は、構造物の長寿命化や省エネなどの観点からも特に重要である。本講演では、主に塗膜による防食技術について、腐食の種類、防食メカニズムとその制御技術、評価技術等について、実例を交えて紹介する。


講演6 「自動車防錆における市場トレンド」
15:40〜16:40 トヨタ自動車株式会社 有機材料技術部
防錆技術室  室長
大河内 智
自動車に対する耐食性向上ニーズの歴史や、欧州・中国を中心とした防錆材料に対する環境規制動向(六価クロム、コバルト塩、ニッケル等)について解説する。また、それらに対応する防錆材料の開発動向や、耐食性評価方法のトレンドについて紹介する。




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