要旨

第3回 プロフェッショナルセミナー開催報告

◆2時間30分の講演と45分のQ&Aタイム
 昨年の11月6日の第1回、本年7月13日の第2回に続いて、12月2日、第3回プロフェッショナルセミナーがオンライン方式で開催された。
 講師は、ビックケミー・ジャパン株式会社 イノベーション ディベロプメント 統括の若原 章博氏、テーマは、「SDGs目標達成に向けた材料とシステム開発へのコーティング用添加剤の寄与」。
 若原さんは、「本講演ではSDGs目標達成にコーティング用添加剤で何ができるかを考えてみたい。塗料の製造から塗布乾燥のプロセスの中で、顔料分散安定化・表面調整・レオロジーコントロールなどの添加剤技術が用いられている。環境負荷低減を考えた時に、第一に添加剤そのものをより安全な材料にすること、第二に配合物とその製造・加工プロセスへの寄与、第三に最終製品の廃棄がポイントと思われる。」と語ってくださった。当日は、2時間30分、以下の諸点について講演してくださった。

 1.コーティングのプロセスと課題及びBYK添加剤
   →塗料製造から塗布・乾燥
   →凝集・沈降・粘度・泡・濡れ・ハジキ・平滑性

 2.界面を制御する単位技術とアプリケーション
   →顔料の分散安定化
   →表面張力の制御、泡の克服
   →レオロジーコントロール技術
   →水系、UV架橋系、2Kウレタン

 3.添加剤の開発方向
   →原料の見直し
   →新たな材料への対応:放熱材料など非酸化物系粒子。
    CNF(セルロースナノファイバー)など木質繊維
   →電池分野でのカーボン・CNT(カーボンナノチューブ)の分散、電池特性

 4.単位技術が磨かれた分野
   →カラーフィルター、インクジェット
   →電池電極スラリー、セパレータ

 5.プロセス改善と感性に訴える
   →ユニバーサルカララント
   →超親水性・高極性表面
   →再生産可能原料・生分解性粒子、バイオプロダクト

講演後は45分間のQ&Aタイム。20件余りの質問が寄せられ若原さんは一つ一つ丁寧に答えてくださった。

◆本セミナーの目的は達成できたか?
通常の講演会では、講演時間は1時間前後であり、Q&Aタイムもせいぜい10分前後である。本プロフェッショナルセミナーの目的は、塗料・塗装技術者が日々使う技術や原材料について、この道のプロフェッショナルにポイントを絞って、時間を掛けて深く話していただき、聴講者の日頃の疑問に答えていただく、或いは聴講者から問題提起をしていただき大いにディスカッションして塗料・塗装技術の一層の発展を目指すことである。
聴講者からのアンケート結果から、いくつか生の声を紹介する。

「添加剤の深いところまで具体例を出して話していただき、分かりやすかった。SDGsやカーボンニュートラルに関する内容もあり興味深く聴くことができた。」(30代、塗料メーカー)

「日々使用している添加剤に関して、カタログにはない情報が得られ非常に役立ち今後の開発検討に活かせる。塗料の廃棄、リサイクルに関しても聴きたい。」(30代、塗料メーカー)

「添加剤の構造と機能の関係をかなり詳しく話していただき、とても参考になった。機能性表面コーティングの話(超撥水、超親水など)を聞きたい」(40代、原料メーカー)

「分散剤、消泡剤、レオコン剤等々を選択する際の考え方を色々聞けたのが一番勉強になった。SDGsの取り組み状況についての生の声が色々聞けて良かった。SDGs関係や抗ウィルス関係を希望する。」(40代、塗料メーカー)

「開発方針や設計思想がとても興味深かったです。」(40代、原料メーカー)

「入社して1年目なので、添加剤の種類、反応について丁寧に説明してくださり、非常にわかりやすかった。また、近年のテーマとして、環境対応製品が注視されており、バイオ技術によるソフト粒子は興味深いものだった。」(20代、塗料メーカー)

「多少駆け足であり、ついていくのが大変であったが、界面制御、レオロジーコントロールについて理論と実例を交えて多岐に渡る内容を講義して頂き、大変充実した時間でした。中でも、導電カーボンの分散技術、ナノ粒子ディスパージョンによる耐擦り傷性、内部応力緩和については興味を持ちました。また、テキストの出来栄えが素晴らしいこと感銘を受けた。折に触れて活用させて頂きたいと考えます。何よりユーザーニーズを把握したいというコメントは印象的であった。」(50代、塗料メーカー)

「エポキシなど樹脂の種類を絞ったテーマについて聞きたい。」(30代、塗料メーカー)

「特に環境対応技術の開発や採用が進んでいる、欧州の新規材料、機能材料、表面処理技術などのテーマを希望する。」(40代、自動車)

「環境保全の機運が高まっており、無溶剤塗料や水系塗料についての現状や今後の展開について聴講したい。」(20代、塗料メーカー)

「環境配慮製品の話をもっと期待していたので、その点は残念だったが、添加剤について非常に深い話をされ改めて勉強になった。水系の消泡については現在業務上で課題にもなっている為、大変参考になり、本内容を元に検討を進めたい。」(30代、塗料メーカー)

「環境配慮製品・設備の動向、バイオマス材料の現状、動向、およびLCAの現状、真の活用(指標としていく事)が現実的に可能なのか業界としての取り組み、向き合い方などを聞きたい。」(30代、塗料メーカー)

「講演の時間が短いからか、1つ1つのスライドの説明が速かったため、もう少し詳細に説明がほしかった。また、添加剤の開発がSDGsにどのように寄与するかもう少し知りたかった。塗装、塗膜形成にかかわるエラーとその対処法について聴きたい」(20代、塗料メーカー)

「塗着効率の向上がSDGsの観点からも大きな課題。100%という理想論を叶える為にインクジェットの手法を取り入れているメーカーも散見する。インク⇔塗料の絶対的な材料の性能面の壁を解説いただきながら、インクの高性能化(塗料のような性能を付与させる)にはどういった課題・手法があるのか知りたい。」(30代、塗装機器・装置)

 聴講してくださった皆さんの声から、所期の目的を達成しつつあり、期待も大きいことが分かった。各回のテーマを絞り、より深く分かり易く話していただくこと、地球環境危機対策についてさらに取り上げることなど来年度の課題が明確になった。

プロフェッショナルセミナー実行委員長
奴間 伸茂

主催一般社団法人
日本塗装技術協会
  
協賛日本化学会色材協会日本塗料工業会
日本塗装工業会表面技術協会日本塗装機械工業会
高分子学会日本工業塗装協同組合連合会日本自動車車体工業会
日本防錆技術協会材料技術研究協会日本レオロジー学会
日本印刷学会日本建築仕上学会日本塗料検査協会
日本油化学会腐食防食学会自動車技術会
静電気学会粉体工学会日本粉体工業技術協会
国際工業塗装高度化推進会議エポキシ樹脂技術協会(順不同)

 
期日2021年 12月 2日(木) 午後1時〜午後4時45分
会場オンライン開催
テーマSDGs目標達成に向けた材料とシステム開発へのコーティング用添加剤の寄与
講師若原 章博 氏
ビックケミー・ジャパン株式会社 イノベーション ディベロプメント 統括

参加資格・参加費日本塗装技術協会会員15,000円
 非会員20,000円

要旨
 本講演ではSDGs目標達成にコーティング用添加剤で何ができるかを考えてみたい。
塗料製造から塗布乾燥のプロセスの中で、顔料分散安定化・表面調整・レオロジーコントロールなどの添加剤技術が用いられている。環境負荷低減を考えた時に、第一に添加剤そのものをより安全な材料にすること、第二に配合物とその製造・加工プロセスへの寄与、第三に最終製品の廃棄がポイントと思われる。
添加剤メーカーとして、BYKでこれらの課題にどのように取り組んでいるかを紹介する。あわせて皆様から塗料・塗装のアイデアを伺いたい。
取り上げるのは下記である。

1. コーテイング材の製造・塗布・乾燥のプロセスでの課題と添加剤

2. 添加剤の役割・機能と構造
 ・顔料分散剤、表面調整剤・消泡剤・レオロジーコントロール剤と環境負荷低減
 ・水性・2K・UV架橋系向けの開発
 ・放熱材料の分散
 ・木質繊維の利用と課題

3. 塗料以外のコーティングテクノロジーを眺める
 ・カラーフィルターでの微分散安定化と作業性
 ・インクジェットでの分散と塗布性
 ・電池分野でのカーボン・CNTの分散、電池特性

4. 工程短縮やプロセスの生産性向上
 ・ユニバーサルカララントの考え方
 ・添加剤による超親水性と素地表面の高極性化による濡れ性の向上

5. 再生産可能原料、生分解性の添加剤の開発例
 ・触感を変えるバイオプロダクトのソフト粒子


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