要旨

第6回 プロフェッショナルセミナー
“工業塗装最大の敵「ゴミブツ」撲滅作戦” 開催報告

「ゴミブツプロフェッショナル」登壇
 2020年11月6日の第1回、2021年7月13日の第2回、同12月2日の第3回、2022年8月5日の第4回、同年12月2日の第5回に続き第6回プロフェッショナルセミナーが2023年8月4日にオンライン方式で開催された。
 講師は、第5回プロフェッショナルセミナーで登壇いただいた久保井塗装株式会社塗装改善研究室の田村吉宣氏(元日産自動車株式会社、元いすゞ自動車株式会社)、約50年間、塗装生産技術一筋のまさに“プロフェッショナルの中のプロフェッショナル”。
 テーマは、“工業塗装最大の敵「ゴミブツ」撲滅作戦”。
 田村講師のお話しは単なる教科書的な解説ではなかった。
 「ゴミ」異物+「ブツ」突起=「ゴミブツ」は工業塗装の大敵であり、工業塗装に携わる誰もが、これを撲滅したいと思っている。田村講師は、この難題に40年以上をかけて 「ゴミブツプロフェッショナル」 たるべく努力してこられたご自身の知見を基に、回答を試みてくださったのだ。

10年来苦しんだゴミブツを1週間で解決
   自動車の前処理・電着塗装は車体を前処理液・電着塗料・UF濾液・水洗液に浸漬して行われるが、これらの液中には車体によって持ち込まれた大量の鉄粉が浮遊しており、鉄粉ゴミブツは、下面 << 垂直面 << 水平面 の順に増大する。「鉄粉は重いため沈む」という誰もが理解できる事実を念頭に置いて、とった対策は、
 1)タンク(槽)内の液撹拌(かくはん)停止
 2)シャワーの強化
 強い液流を要する湯洗・脱脂・化成や塗料沈降防止の液撹拌が必須の電着では常時撹拌は必要である。しかし、水洗や表面調整工程では撹拌は必要が無い。それどころか、撹拌すればせっかく槽底面に沈んで大人しくしている寝た子(鉄粉)を撒き上げて車体に振りかけてしまう。不要というよりは有害な撹拌を止める事で、鉄粉ゴミは激減した。槽底に溜まった鉄粉は生産終了後や始業前に除去すれば良い。
 これが田村講師がとった「タンク内の液撹拌停止」対策である。
 わずか1週間で鉄粉ゴミを激減させることができたのだ。
 前述したように、「鉄粉は重いため沈む」。この原理に沿ったゴミブツ対策として、車体を逆さまに引っくり返して前処理・電着塗装をするとゴミブツは本来の下面(床裏やルーフ裏)に移動し、水平面のゴミブツは激減する。これが欧州で開発された回転塗装(デュル社Ro-Dip)や走行・回転・昇降3軸塗装(アイゼンマン社E シャトル)であり、下塗り品質を劇的に向上させた。これらの技術についても詳しく、かつ具体的に紹介してくださった。

「糸ゴミ」も「本質的」に1週間で解決
 二つ目のゴミ・ブツ撲滅事例は、タイにおけるスプレー塗装時の上塗糸ゴミ対策事例である。
 心に響いたのは田村講師の以下の問いかけである。
 「問題が起こって対策会議を開いたとする。すると、まずは有識者が想定原因と対策をすらすらと述べ、次に声の大きい有力者が決定打的な対策計画を指示し、現場の長老が経験に基づく別案が良いと反論し、最終的には時計を見ながら対策が決まり、会議は解散する。良くあるパターンであるが、本当にこれで問題解決するのであろうか?」
 これに対して、田村講師は、タイにおけるスプレー塗装時の上塗の糸ゴミ問題を「問題解決型QCストーリー」によって本質的に解決されたのだ。この手法は、日本において多くの企業で採用され、実施されているが、今回のように具体的事例について、詳細にわたって報告された例はほとんど見たことがない。
 特に、[ステップ4]の要因の解析の緻密さは、是非とも皆さんに学んでいただきたい。各ステップを「形式的」にこなしていく例も見受けられる。田村講師が実践された「問題解決型QCストーリー」はゴミブツ問題だけでなく、あらゆる問題解決の「基本書」として活用していただきたい。以下に全ステップの表題を引用させていただく。
 [ステップ1]テーマ選定の理由
 [ステップ2]現状把握と目標設定
 [ステップ3]活動計画の作成
 [ステップ4]要因の解析@(要因の洗い出し)
 [ステップ4]要因の解析A(糸ごみの顕微鏡観察)
 [ステップ4]要因の解析B(糸ごみの赤外線分析)
 [ステップ4]要因の解析C(ホコリの発生源特定)
 [ステップ4]要因の解析D,E,F(塗料中のホコリ確認)
 [ステップ4]要因の解析G,H,I,J(塗料外ホコリ発生源探索@,A,B,C)
 [ステップ4]要因の解析K, L,M(上塗ライン内糸ゴミ検証方法)
 [ステップ5]対策の検討と実施
 [ステップ5]対策の実施@(加湿機の設置)
 [ステップ5]対策の実施A(壁内面への粘着剤塗布等)
 [ステップ5]対策の実施B(前工程ワイピング・エアブローの実施)
 [ステップ6]効果の確認@(高明度シルバーの糸ごみ不良率推移)
 [ステップ6]効果の確認A(全色総合の糸ごみ不良率の推移)
 [ステップ6]効果の確認B(全色総合不良率推移)
 [ステップ7]標準化と管理の定着

ゴミ・ブツ対策の基盤:クリーン塗料
 最後に田村講師は塗装ゴミ・ブツ対策の基盤中の基盤としてのクリーン塗料を得るための7つの心構えについて実に丁寧に教示なさった。
以下に7つの心構えを示すが、塗料開発・製造に携わる方々は真剣に学んでいただきたい。
 【心構え1】乾かさない
 【心構え2】こびりつかせない
 【心構え3】傷めつけない
 【心構え4】澱(よど)ませない
 【心構え5】汚さない
 【心構え6】鮮度に注意
 【心構え7】濾過(ろか)が命

絶賛の嵐
 聴講してくださった皆様から感謝の言葉が数多く寄せられている。「ここまで具体的なノウハウを開示されて、非常に驚いております。」、という声に代表されるように実際に現場で役立つ、本質的な問題解決の考え方、手法に心打たれたようである。
 田村先生、貴重なご講演、本当に有難うございました。

プロフェッショナルセミナー実行委員長
奴間 伸茂

主催一般社団法人
日本塗装技術協会
  
協賛日本化学会色材協会日本塗料工業会
日本塗装工業会表面技術協会日本塗装機械工業会
高分子学会日本工業塗装協同組合連合会日本自動車車体工業会
日本防錆技術協会材料技術研究協会日本レオロジー学会
日本印刷学会日本建築仕上学会日本塗料検査協会
日本油化学会腐食防食学会自動車技術会
静電気学会粉体工学会日本粉体工業技術協会
国際工業塗装高度化推進会議エポキシ樹脂技術協会日本塗料商業組合

(順不同)

 
期日2023年 8月 4日(金) 午後1時〜午後4時45分
会場オンライン開催(Zoomビデオウェビナー)
テーマ工業塗装最大の敵「ゴミブツ」撲滅作戦
講師田村 吉宣 氏
久保井塗装株式会社 塗装改善研究室 室長

参加資格・参加費日本塗装技術協会会員15,000円
(複数人申込特典 @12,000円)
 協賛学協会会員15,000円
(複数人申込特典 @12,000円)
 非会員20,000円
(複数人申込特典 @16,000円)

要 旨
 「ゴミ」異物+「ブツ」突起=「ゴミブツ」は工業塗装の大敵である。工業塗装に携わる誰もが、これを撲滅したいと思っているだろう。しかし、どうしたら良いのであろうか? 本セミナーは、この難題に40年以上「ゴミブツプロフェッショナル」たるべく戦って来た自身の知見を基に回答を試みるものである。
 一般的に塗装膜厚は100μm以内であり、ここに60μmを超える塗膜中及び塗膜上の異物・突起があると「ゴミブツ」と判定される。これより小さくても複数が寄り集まっている場合や、ピアノフィニッシュ・ホワイトパール・高明度シルバーのような「ゴミブツ」が目立ちやすい塗装では判定がより厳しくなり、「ゴミブツ」対策もレベルアップが必要となる。塗装を大別すると「浸漬塗装」と「吹付塗装」があり、前者の代表は電着塗装であり後者の代表はスプレー塗装である。本セミナーでは電着塗装ゴミブツ対策とスプレー塗装ゴミブツ対策のそれぞれについて解説する。
 「電着塗装ゴミブツ対策」の解説では、マレーシアで10年来苦しんで来たゴミブツを1週間で解決した事例を、そして「スプレー塗装ゴミブツ対策」ではタイで大幅増加した「糸ゴミ」を1週間で解決した事例を紹介しながら解説する。なお「糸ゴミ対策」では、問題解決手法の王道である「問題解決型QCストーリー」に沿っての解決実例として解説する。

内 容
1.電着塗装ゴミブツ対策事例(@マレーシア)
2.電着塗装ゴミブツ対策最新事例(回転型電着塗装@タイ&日本)
3.問題解決型QCストーリー解説(特性要因図vs系統図)
4.スプレー塗装ゴミブツ対策事例(糸ゴミ@タイ)
5.クリーン塗料への挑戦


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