要旨
第7回 プロフェッショナルセミナー “塗装はダイナミックに変わる” 開催報告
◆104名の熱気に包まれた対面開催会場
2020年11月6日の第1回以来オンライン方式で開催されてきた本セミナーですが、2023年12月21日、日本ペイントホールディングス 東京事業所 センタービルをお借りして初めて対面方式で開催されました。
88名の参加者、16名の主催者、報道関係者、合わせて104名の熱気で会場は包まれました。参加者からは、「久々の会場でのセミナー、ありがとうございました。やはり講師の顔を見ながら講演が聞けるのは良かったです。」という感想を多数いただきました。ファシリテーターを務めた筆者も、講演を聴いてくださっている皆さんの反応を全身で受け止めることが出来、たいへん気持ちよく司会進行することが出来ました。
◆「塗装の未来は明るい」
今回のセミナーでは、タクボエンジニアリング株式会社の佐々木栄治社長の基調講演「塗装の未来」につづき、同社技術本部 開発部 シニアマネージャー 小島 光氏に「世界が認めたRの技術」、同じく技術本部 ジェット事業部 シニアマネージャー 上村 一之氏に「第4の塗装機の現状と未来」についてお話しいただきました。
同社は1975年創業以来48年間、「塗装は、人々に豊かな生活を与える産業である一方で、地球環境へダメージを与える産業でもあり、我々は常にそれらを最小限にする責任がある」という深い認識のもと、革新的な塗装システムの開発に邁進されてきました。
基調講演では、以下の4つのテーマについて熱く語られました。
1.塗装システムはダイナミックに変わっていく
(AGV:Automatic Guided Vehicle(無人搬送車)、AMR:Autonomous Mobile Robot
(自律走行搬送ロボット)、コンベアレス)
2.ロボットとAIの進化(ロボットが考える塗装)
3.市場は塗料に何を求めているのか?
4.地球と塗装の未来をどう考えているのか?(未来は創るもの)
筆者が先ず感動したのは、「ユーザーの望む塗装を製品化する精神。製品実現のための機器が世の中に無ければすべて自社で考え、製造する。」という「塗装道」の精神です。「ユーザーが塗装を通じて、存在に自信を持ち、自らが技術を磨き、提案を実現し、そして利益を創造し、エンジニアリングメーカーは、業界の慣習にとらわれずに、未来に希望が持てる産業であることを推し進めること、これこそが塗装道です。」とおっしゃる佐々木氏の言葉が深く心に響きました。
そして、基調講演の締めくくりの提言;「塗装は今後もなくなる事はない。その為には、今後関係各社が業界の垣根を超え、知恵を絞り、地球環境の保全・改善に向け努力する事」を実践していこうと決意しました。
◆世界が認めたRの技術
小島氏のお話しの骨子は以下の通りです。
1.「Rの技術による回転塗装」の原理とその凄さについて
2.流体解析で分かったこと
3.回転塗装の事例
4.タクボが考える塗装のDX
「Rの技術」は、20数年前(1998年)の携帯電話の大量生産から発展しました。いかに同じものを大量に生産するか、いかに塗料を少なくするかという相反する課題が要求されていました。従来の網塗り塗装で、生産数を上げるためは、「スプレーガンの移動速度を上げて、吐出量を上げる」方法しかなく、スピンドル塗装においても、原理的に「コンベア速度を上げて、固定ガンの数と吐出量を増やす」方法しかありませんでした。そのような中で誕生した「Rの技術」の特徴である、@ 塗料使用量の削減、A 生産性の高さ、B 仕上がりの良さが見事に解説されました。最新の流体解析による塗着効率向上のメカニズム解明は大変説得力がありました。
◆第4の塗装機の現状と未来
上村氏の講演の構成は以下の通りでした。
1.第4の塗装機
2.マスクレスコーティングとしてのジェッティングシステム
3.開発ストーリーとマインドギャップ
4.これからのジェッティングシステムの構想
第1の塗装機は空圧霧化
第2の塗装機は液圧霧化
第3の塗装機は高速回転霧化
以上は市場で一般的に使われている塗装機ですが、第4の塗装機とは、100%塗着を可能にする塗装機です。マスキングを行わず、要求する箇所へ塗料を無駄なくダイレクトにコーティングする構造になっています。これを実現するためには第4の塗装機に適用できる材料開発が不可欠です。すなわち、塗料・UVインク・添加剤の開発が欠かせません。塗料メーカーはじめ材料メーカーとの協業が不可欠となります。
インクジェット方式では不可能であった塗料吐出とアプリケーションを可能にする機構の開発についても詳細にわたり解説してくださいました。そのような第4の塗装機により以下の課題が実現可能となりました。
@ 飛距離増加
A あらゆる塗料(溶剤型・水性・UV)、インキ、機能性材料の吐出
B 低〜高粘度:2000mPa・s、顔料粒径(実績:20μm〜)吐出
C 小さなヘッド筐体作成〜凹凸面・カーブ適用可能、干渉部位を避けて塗布
D ヘッド先端の洗浄が容易な構造
塗着効率100%でオーバーミスト無しが実現できれば、塗装ブースは不要(局排除く)となりCO2排出量は大幅に削減されます。
詳細は「予稿集」に掲載されています。是非,再度目を通していただきたいと思います。
◆未来は共に創るもの
「今回の講演も 非常に興味深い内容であり、片時も集中が途切れることなく拝聴出来た。」という参加者の声が多く寄せられました。
全人類の喫緊の課題であるカーボンニュートラル達成に必ず役立つ将来技術が多く紹介されました。
希望に満ちた理想の未来を創るには、塗装機メーカー1社では無理で、ユーザー、塗料メーカーをはじめ 様々な分野との協力体制が必須となります。そのために必要なリーダーシップの育成にも力を入れなければいけないという佐々木氏の言葉をしっかりと受け止め、塗装システムをダイナミックに変えていきましょう。
第7回プロェッショナルセミナー実行委員長 奴間 伸茂
主催 | 一般社団法人 日本塗装技術協会 | | |
協賛 | 日本化学会 | 色材協会 | 日本塗料工業会 |
| 日本塗装工業会 | 表面技術協会 | 日本塗装機械工業会 |
| 高分子学会 | 日本工業塗装協同組合連合会 | 日本自動車車体工業会 |
| 日本防錆技術協会 | 材料技術研究協会 | 日本レオロジー学会 |
| 日本印刷学会 | 日本建築仕上学会 | 日本塗料検査協会 |
| 日本油化学会 | 腐食防食学会 | 自動車技術会 |
| 静電気学会 | 粉体工学会 | 日本粉体工業技術協会 |
| 国際工業塗装高度化推進会議 | エポキシ樹脂技術協会 | 日本塗料商業組合 |
(順不同)
期日 | 2023年 12月 21日(金) 午後1時〜午後4時45分 |
会場 | 日本ペイントホールディングス(株) 東京事業所 センタービル1Fホール |
テーマ | 塗装はダイナミックに変わる |
《講師》 | タクボエンジニアリング株式会社 |
| 代表取締役社長 佐々木 栄治 |
| 技術本部 開発部 シニアマネージャー 小島 光 |
| 技術本部 ジェット事業部 シニアマネージャー 上村 一之 |
参加資格・参加費 | 日本塗装技術協会正会員 | 15,000円 (複数人申込特典 @12,000円) |
| 協賛学協会会員 | 15,000円 (複数人申込特典 @12,000円) |
| 非会員 | 20,000円 (複数人申込特典 @16,000円) |
要 旨 |
塗装産業技術の在り方は、正に潮目を迎えている。
この先、塗装システムは、古いシステムが淘汰され、大きく変わっていく。AIの進化と共に、人ではなくロボットが自分で考え、判断し、塗装する時代に変わっていく。自然に変わっていくのではない、我々が人と自然、地球と塗装の理想の未来を思い描いて、共に創っていくからこそ、そうなっていく。
塗装の素晴らしさを追求する一方で、モノづくりにおいて人類が向き合うべき環境問題が騒がれる以前から、タクボエンジニアリングは、塗料消費を少なく、総合エネルギーを低減させる唯一の回転塗装ロボットメーカーとして、その技術を世界へ展開してきた。これは弊社の掲げる「塗装道」であり、塗装に対するアイデンティティとして、創業以来48年間、「塗装は、人々に豊かな生活を与える産業である一方で、地球環境へダメージを与える産業でもあり、我々は常にそれらを最小限にする責任がある」という深い認識がある。まさに今、共有すべき考え方である。
その塗装道のコンセプトが「Rの技術」を生み出し、今まで誰も行わなかった回転塗装の流体解析により、様々なことがわかり、更に技術を進化させている。
また第4の塗装機であるマスクレスコーティングシステムは、現状の小型部材の領域から、昨今の多様な要求に対する将来の構想を考えていく。
多くの塗装関係各位に、夢と希望を込めてお話ししたい。未来を創るには、1社では無理で、ユーザー、塗料メーカーをはじめ 様々な分野との協力体制が必須となる。そのための強力なリーダーシップについても話をする。多少耳の痛い話になる部分があるかもしれないが、この場でしかお話しできない内容もある。ご容赦いただき、闊達に意見を交換し、大いに塗装の未来を感じていただければ幸いである。
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<プログラム>
1. 塗装の未来 佐々木 栄治
1.塗装システムはダイナミックに変わっていく
(AGV、AMR、コンベアレス)
2.ロボットとAIの進化(ロボットが考える塗装)
3.市場は塗料に何を求めているのか?
4.地球と塗装の未来をどう考えているのか?(未来は創るもの)
2. 世界が認めたRの技術 小島 光
1.流体解析でわかったこと
2.自動ティーチングへのアプローチ
3.なぜ「Rの技術」で塗料が大幅に減るのか?
4.同じモノを100万個つくる技術
3. 第4の塗装機の現状と未来 上村 一之
1.マスクレスコーティングとしてのジェッティングシステム
2.開発ストーリーとマインドギャップ
3.これからのジェッティングシステムの構想
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