プログラム

<講演会報告>

2025年度第1回講演会を終えて

 2025年度第1回講演会は「塗装技術と意匠の発展を語る〜 身近に触れる心躍るものを工業手法で造る、過去の技術と今後の方向性 〜」と題して、2025年6月13日にオンライン形式で実施され、52名の方々がご参加されました。講師の皆様、また参加者の皆様、お忙しい中ご講演・ご聴講いただき誠にありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 近年カーボンニュートラルをはじめとする環境対応が塗装技術開発の前面に立つようになりましたが、異なるベクトルで新たな思考を巡らせたいと思い、塗装本来の魅力品質である意匠を取り上げる今回の講演会を企画致しました。美しいものを求める人の心は変わらないですが、何を美しいと受け止めるかは個々の差が大きいところはあります。しかし一定の規模の人々の感性に刺さって価値を感じられる製品を塗装でも造り続ければ環境対応と共に塗装技術は発展継続していけると信じています。これからの意匠と塗装技術の関係はどの方向に向かっていくのかを探るきっかけを創るべく、これらの分野において最前線で取り組まれている方々をお招きしご講演いただきました。
 第1講は「自動車塗装における 究極の意匠を目指して」と題して、関西ペイント株式会社 自動車・工業事業部門 第2技術開発部 新意匠・デザインG 担当次長 藤枝様より、シルバーメタリックカラーの開発の変遷と、超金属調意匠などについてお話しいただきました。ロジカルに目指す指標を設定し、材料とプロセス両面で成立する工程を構築していくストーリーは素晴らしく、参加者からは大変勉強になったという感想を数多くいただきました。

 第2講では「車両部材への樹脂フィルム活用」と題して、株式会社ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー 技術部 執行役員 鷹羽(たかのは)様と、営業部 執行役員 石川 様より、金属調加飾製品などの紹介をいただきました。フィルムへの金属蒸着によって塗装や印刷では再現できない粒子感のない金属調意匠を実現していることや、成形加工に対するフィルムならではの技術的な工夫など、動画もまじえて理解が進む構成でした。参加者からは、塗装とは違うアプローチが興味深く参考になったという感想をいただきました。

 第3講では「 デザイン塗色 & 色・アピアランス評価のご提案」と題して、山本通産株式会社 色彩創造センター リーダー 橋本 様、グローバル営業本部 市場開発部 リーダー 月原 様よりご講演いただきました。こちらも顔料・光輝剤の意匠上の特徴を的確にとらえた動画を使ったアプローチで、そのままオンラインでの感性評価に使えそうな画像の提示が素晴らしかったです。また測色機器を用いた塗色の特徴の管理方法についても、わかりやすく提示していただきました。こちらも参加者から、ためになった、参考になったといった感想をいただくことができました。

 第4講では「グローバルCMFトレンド分析」と題して、DICカラーデザイン株式会社 企画営業本部 カラーストラテジーグループCMFデザイナー 成田 様よりご講演いただきました。ミラノデザインウイークでの提示の中から、外観を構成する要素である色(Color)、素材(Material)、仕上げ(Finish)を分析した結果を、美しい写真とともに解説していただきました。とりあげられた画像から新しい塗色のヒントがたくさんあるように感じました。参加者からは、色意匠のトレンドを知ることができ非常に勉強になりましたという感想をいただきました。

 第5講では「個々の意匠の美的感性をどう測るか 〜視覚(色の見え)と言語(単語表現)のギャップを探る」と題して、高知工科大学 情報学群 教授 篠森 様よりご講演いただきました。視覚工学をバックグラウンドとした感性の評価方法の概論から、色の印象を評価する実験の例を示し、画像を言葉に結び付けて評価する手順が示されました。実験の過程は塗装技術者にはなじみがない手法で難しかったところはあったかと思いますが、色が見えていないはずなのに言葉の印象に基づいて評価されているといった結論が導かれる考察の過程は聴きがいがある内容でした。色や視覚における評価は、仕掛ける側が考えるよりも言葉などの印象に誘引されることがあることが身に沁みました。参加者からは、評価する手法としてアカデミックな内容で勉強になったという感想をいただきました。

 講演会にご参加いただいた皆様、ご質問やご意見、アンケートにご協力いただき誠にありがとうございました。本講演会が少しでも皆様の役立つものとなれば幸いです。
 日本塗装技術協会では、年3回の講演を実施しております。次回の2025年度第2回講演会は、2025年10月10日にゴミブツ対策関連にフォーカスをあてて開催予定です。ぜひご参加いただけますと幸いです。

2025年度第1回講演会実行委員長
株式会社クリイノ創研 若井 宏平

主催一般社団法人
日本塗装技術協会
  
協賛日本化学会色材協会日本塗料工業会
日本塗装機械工業会高分子学会日本工業塗装協同組合連合会
日本自動車車体工業会日本防錆技術協会材料技術研究協会
日本レオロジー学会日本印刷学会日本建築仕上学会
日本塗料検査協会日本油化学会腐食防食学会
自動車技術会静電気学会日本粉体工業技術協会
国際工業塗装高度化推進会議エポキシ樹脂技術協会 

 
期日2025年 6月 13日(金) 09:45〜16:15
会場オンライン(ZOOMウェビナー)

参加費日本塗装技術協会及び協賛学協会会員22,000円
非会員29,700円
学生参加者3,300円

プログラム
講師の方の敬称は略させていただきます。

09:45 開会の挨拶とガイダンス  日本塗装技術協会 第1回講演会実行委員長
09:55〜10:55
(Q&A含む)
「自動車塗装における 究極の意匠を目指して」
No.1 関西ペイント株式会社
自動車・工業事業部門 第2技術開発部
新意匠・デザインG 担当次長
藤枝 宗
概要:
自動車外板塗色で人気があるシルバーメタリックはメッキのような意匠を目指して進化してきた。進化の背景には色材である光輝材の進化や、それをうまく配向させる塗料、塗装工程の技術の進化が欠かせない。本発表ではシルバーメタリックカラー開発の変遷と、そこから派生した超金属調意匠について紹介する。

休憩(5分間)
11:00〜12:00
(Q&A含む) 
「車両部材への樹脂フィルム活用」
No.2 株式会社ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー
技術部 執行役員
鷹羽 祐貴
概要:
近年、世界的に環境配慮型の素材や加工方法への関心が高まっており、車両用部材においても樹脂フィルムの検討機会が増加していると認識している。今回、この市場の変化の中で、フィルムメーカーとしての当社の取り組みを、主力製品である金属調加飾フィルムの採用事例を通じて紹介する。

昼食休憩(60分間)
13:00〜14:00
(Q&A含む)
「デザイン塗色 & 色・アピアランス評価のご提案」
No.3 山本通産株式会社
@色彩創造センター リーダー
橋本 真実
Aグローバル営業本部 市場開発部 リーダー
月原 弘尊
概要:
トレンドの一つ”滑らかなエフェクト表現”を目指し、実際に作成した色をご紹介。またその塗色を、分光測色計 CM-M6にて測定、特長を考察する。さらに、黒色の品質(黒色度)を定量化する3つの指標、アピアランスの評価装置を、測定データを交え説明する。

休憩(5分間)
14:05〜15:05
(Q&A含む)
「グローバルCMFトレンド分析」
No.4 DICカラーデザイン株式会社 企画営業本部
カラーストラテジーグループ CMFデザイナー
成田 瑞彩
概要:
世界的なトレンド発信の場となっている「Milan Design Week」。DICが10年以上に渡り、独自の視点で読み解く「社会的価値観」「カラー」「マテリアル」は、様々な分野のモノづくりに影響を与えている。本ウェビナーでは、長期的な視点で捉えているからこそ導き出せる、CMFの動向を紹介する。

休憩(5分間)
15:10〜16:10
(Q&A含む)
「個々の意匠の美的感性をどう測るか 〜視覚(色の見え)と言語(単語表現)のギャップを探る〜」
No.5 高知工科大学
情報学群 教授
篠森 敬三
概要:
美的感性を数値として計測するのは難しい。デザインを評価する際は、評価者が得た印象を表現するために意味語を定義して用いることが一般的だが、実際の見えに即した期待通りの選択を被験者が行うとは限らない。
 その区分を明確にするために筆者が開発した手法では、見えていないのに経験で回答をするケースと、実際に見て判断して回答する例を分離することが確認できた。これが意味することについて考察する。
 そして視覚研究の立場からデザインを全て解析することは簡単ではないが、現在知られている事実をもとにこれからを語る。

16:10〜16:15 閉会の挨拶と今後のご連絡


Copyright(C); 2006, Japan Coating Technology Association. All Rights Reserved.